この怖い話は約 3 分で読めます。

岡山県の県北には「広戸風」(ひろどかぜ)という局地的な暴風
が起こる。これは奈義山からの吹きおろしで台風の時は必ず被害
があるため、台風になると古い家は板戸を補強したり牛舎の戸を
釘で打ちつけたりするのが恒例行事だ。

うちの地方では広戸風の吹く日は外に出たら「持って行かれる」
という言い伝えがある。広戸風の被害は時として甚大で、屋根ご
と飛ばされる家もでるくらいだから、ある種当然ともいえる言い
伝えではあるが、これには実はいくつかの民話が残っている。

何種類かあるようだが、まとめるとこんなお話。
毎年夏になると台風の時期、広戸風にそなえて各家々は屋根の補強
に忙しくなるが、その村のお袖という女性の家はそういう訳にも
いかなかった。
夫が岡山の方(県南の中心部)へ出稼ぎに取られていたために男
手が不足していた事もあったが、生まれたばかりの赤ん坊の世話
も焼かなければならなかったからだ。

彼女は集落の中でも働き者で豪胆な性格だったので、少しずつで
はあるが一人で家の補強をしながら日々仕事もこなしていた。
その甲斐もあって台風までには母屋の補強は間に合ったのだが、
一箇所補強し忘れていたところがあった。

牛舎の補強である。
当時の牛は大事な働き手であり、心細い家計の支えでもあったの
でそのままにしておく訳にはいかない。
ところが、牛舎の事まで気が回っていなかったので補強に必要な
角材やらが足りない。おりしも台風が強くなりつつある頃合では
あったが、彼女は意を決して赤ん坊を背負ったまま天神社まで木
切れを取りに行く事にした。

201 名前: 本当にあった怖い名無し 2006/07/27(木) 04:02:18 ID:aRVIBW4q0
天神社はその集落から少し外れた林道の奥にある。彼女は泣く子
を背負子に背負ってあやしつつ薄暗い林を抜けていったのだが、
道中突然空から大きな声がした。

「おい、お袖さん」

それは今まで聞いたこともないような大きな声で、言われるまで
もなくこの世のモノとは思えなかったのだが、彼女は太い肝の持
ち主だったので、怖がるわが子に背負子をかぶせてさらに先を目指したのだった。

「おい、お袖さん」

天神社の手前まで来ると今までよりもさらに大きな声で自分を呼
ぶ声がした。いよいよ恐ろしくなってきたが、とるものも取り合
えず社にある使えそうな木切れをまとめて帰途についた。
もうじき林を抜けようかという時もう一度「おい、お袖さん」と
いう声が聞こえ、今度は背中を何かに捕まれるような強い力を感
じるに至って恐ろしさも極限になり、彼女は家までの道を走って帰ったのだった。

202 名前: 最後 2006/07/27(木) 04:04:43 ID:aRVIBW4q0
家に帰り、それでも離さず持ってきた木切れを見て一安心し、
ふと背中の我が子に目をやると赤ん坊は背負子の中に顔を埋めて
コチラから見えない。恐ろしさのあまりか、あれだけ泣いていた
にも関わらず今は黙って中にもぐっている。
どうやらお漏らしもしているようだった。
相当に恐ろしい思いをさせてしまったのだろう、と不憫に思い、
背負子をはずして赤ん坊の顔を見ようとしてみると、、、

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